T~たいむ

のんびりいろんなレビューします

怖い絵から思うこと② 視覚で伝わる悪意

悪意 

人に害を与えようとする心。他人を憎む心。わるぎ。わるげ。⇔好意。「ーをもつ」「ーを抱く」「ーにみちた批評」
②わるい意味。意地のわるい見方。←→善意。「ーに解釈する

                大辞林 三省堂2006-2008 (編者:松村 明)より 抜粋

悪意はいろんな形で伝わることがあります。
たとえば有名な画家が描いた絵に悪意が込められていたとすれば、その表現力の圧倒的な強さによって、感じ取った不快感は相当なものに違いありません。

ジャック=ルイ・ダヴィット作
「マリーアントワネット最後の肖像」

1793年鉛筆 パリ国立図書館

f:id:hbkys921:20171229010656j:plain

怖い絵 中野京子著 より 

 

マリーアントワネット。歴史が得意でなかったとしても誰もが一度は聞いたことがあるでしょうこの名前。フランス革命時代を代表する人物の一人。ルイ16世のお妃でり、あのヴェルサイユ宮殿で暮らし、貧困に苦しむ国民に対し「パンが無ければお菓子を食べればいい」と言い放ったことはあまりに有名。(しかし一説ではアントワネットは実際には言わなかったことが有力視されてるようです。彼女を悪者にしようとする噂だったのでしょうか?)

 

彼女の肖像画は多数存在し、そのどれもが美しい描写で描かれています。王妃にふさわしい気品と透き通るような白い肌、本人の容姿を絶賛する言葉(スリーサイズまでもw)も残されていることから、美しく描かれた肖像画はあながちそこまで「盛られて」はいないのかもしれませんね。

f:id:hbkys921:20171229010759j:plain

マリー・アントワネットエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン画、1783年Wikipediaより

フランス革命が勃発するとルイ16世は斬首刑となり、その王妃であったアントワネットも同様に斬首刑となりました。

このとき、刑を執行する場所であるコンコルド広場に移動中の彼女を描いたのが、「マリーアントワネット最後の肖像」ということです。

数々の美しく描かれた肖像画とは一変し、鉛筆で線1本。短時間でさっと描いたようなデッサン。肖像画ではお約束ともいうべき口元の笑みなど微塵も無く、下唇は半ばおおげさに前に突き出され、しっかりと閉じられた口元の歪みが、より一層底意地悪そうに表現されており、その容姿はまるで年老いた魔女のよう。彼女は当時38歳。とてもそうには見えませんね。
女性の命ともいうべき髪は、耳が出るところまで不揃いに切られ、毛先もあちこちに散らばり、ギロチンの刃が通りやすいように、うなじの生え際もかなり短く切り上げられ、あらわになった首にはシワまで描かれています。
この暴力的で悪意に満ちた作品は、もちろんそこら辺の素人が描いた作品ではありません。
「余の辞書に不可能という文字は無い」で有名なナポレオン。その中でも最も知名度が高い絵画と言ってもいいのが「サン・ベルナール峠を越えるナポレオン・ボナパルト」。

f:id:hbkys921:20171229011502j:plain

1801年 | 油彩・画布 | マルメゾン国立美術館
これ、描いた人ですよ。ジャック=ルイ・ダヴィット(1748-1825)
ダヴィットは非常に高度な写実的描写の作品が多いことで有名であり、彼の観察眼であればマリーアントワネットの最後の姿であったとしても美しく描けたに違いありません。

f:id:hbkys921:20171229011747j:plain

処刑前のアントワネットを描いた絵はダヴィット以外にも多数存在しています。

 


言葉で表現しきれない悪意を伝えようとでもしたんでしょうかね。

しかしこの絵は200年以上の年月が経っても現代に残され、多くの人々の関心と評価を受けている作品なのです。

 どうやら彼は、散々美化されてきたアントワネットその人の人生を、悪意に充ち満ちた醜い表現で辱め、たった一枚のデッサンで打ち砕いてやろうとしたのに、仕上げてみれば、何ものにも屈しないまさに王妃の名にふさわしい大した女性を描いてしまったようですね。

 

閉眼することで周りの罵声をものともせず、顔は真正面に、今も豪奢な衣装を身にまとっているかのような自信に満ちた活き活きとした背筋。この毅然たる姿は死に方も見事だったことでしょうね。

 

ルイ15世の妾であるデュ・バリー夫人は、ギロチン台の上で泣き叫び懇願したそうです。

ギロチン台にかけられる際、死刑執行人シャルル=アンリ・サンソンの足を踏んでしまった際に発した彼女の最後の言葉が記録として残されています。

 

 

「お赦しくださいね、ムッシュ。わざとではありませんの。でも貴方の靴が汚れなくてよかった。」

 

 

その他参照元

1.

https://ja.wikipedia.org/wiki/マリー・アントワネット

2.

http://www.salvastyle.com/menu_neo_classicism/david.html