怖い絵から思うこと④
本当に表現したかったことが、何らかの理由で正確に伝えられず、そのまま真実が埋もれてしまうことはあります。
仕事していてもそういうときあります。
「あれ?こういうふうに伝えたつもりないんだけどなぁ」と思惑と結果が違ってしまったことありませんか?特に自分じゃない誰かに代理で伝達してもらう場合ですね。
伝言ゲーム。 たった数人でやるゲームにもかかわらず、最後の人にたどり着けないことありますよねぇ。
歴史調査などはそれにもっとも関係しているでしょう。
古代の人々から直接話を聞くことも出来ないですからね。
絵画などはそういう意味では解釈するしないの前に、購入者の好みで書き換えられることがあるのです。考えてみたら恐ろしい…。
当時の富豪は、自分の寝室やダイニングにイメージする絵を注文して描いてもらっていたのですが、絵が気に入らない部分を別の画家に修正させたりしたことがあったようです。この先200〜300年受け継がれる文化的にも芸術的にも非常に価値が高い作品になろうとはその時は誰一人思ってなかったでしょうが、直接筆を加えるとは…子供のイタズラ書きと一緒ですよ!?こわい−!
ちょっとまえにありましたね。神社に落書きのイタズラ。
目的は違えどやってることは似たようなものです。それくらいひどい話。
この絵も修正が加えられた作品です。ピーテル・ブリューゲル作。
1月23日から東京美術館でブリューゲル展やりますね!
観に行きたいなぁ〜〜
ブリューゲルの特徴は一見して大勢がワラワラとしていて、当時の人々の生活や文化を描いた作品が多いのですが、登場するものすべてが今にも踊り出しそうな躍動感があります。写実描写とはちょっと違い、アニメチックな印象を受ける一報、当時の温度や匂いまでもが伝わってきそうなリアリティがあります。そんなブリューゲルが残酷な絵を描いたらどんな作品になるのでしょうか。
実はこの作品は一部、何者かによって手直しがされています。直し方が素人ではなさそうなので、おそらく所有者が誰かに手直しさせたということだそうです。
所有者はローマ帝国皇帝ルドルフ2世。
作品の中身。
大勢がなにやらただごとではない緊迫した状況。甲冑に身を包んだ兵士、馬にまたがる兵士に住民が許しを請うような姿。中央で座り込み泣く女性。中央上部、家畜を集めて槍で突き刺す兵士や身をかがめて動転する人々。その少し左。丸太の近くに立つ兵士。
もはや状況はパニック状態。住民にとって家畜は大事なのは分かるんですがそこまでの状況になる??
というのがこの絵に感じる違和感ですね。
この絵が何らかの改竄が施されていると知らされなければ気がつかない。
それほどこの絵は作品として完成しているんですね。
ではどこが改竄箇所なのか。
それがこちら。
タイトルは「ベツレヘムの嬰児虐殺」
2歳以下の子供を虐殺している状況を描いたものです。
画面手前馬にまたがる兵士のすぐそばで子供が連れ去られようとしているところを大人が必死に抵抗しているのが確認できます。
画面中央。一カ所に集められて槍に突かれているのは家畜ではなくなんと子供達。そのすぐ右。裸のまま、おそらく息絶えているであろう子供を抱きかかえてしゃがみ込む母親。丸太に描き換えられていたのは子供でした。
このように、10数カ所改竄されていました。
この作品は、新約聖書の1つである「マタイ伝」のエピソードの一場面を描いたものだそうで、ブリューゲルが本来描きたかったものです。
しかし、所有者はその絵のあまりの残酷さに、雇った無名の画家に、別のものに改竄するよう指示を出したということのようです。
いくら無名の画家とはいえ、この作品の圧倒的な存在感の前に筆を持つ手が震えたでしょうね。
人は、物や言葉を残すことで寿命の限界を超え、何百、何千年と、その意思を伝えることができます。リレーのバトンのように。
日本人で戦争を体験したお年寄りの人口がゼロになった後も、未来永劫、戦争を繰り返してはならないという意思を受け継いでいけるでしょうか。
伝言ゲームのような間違い許されませんよ。